「建設業働き方改革加速化プログラム」は2024年から本格的に始まります。
既に中小企業を含む他産業の大半で施行・適用されている「働き方改革」の推進の一環であり、これから建設業に携わるすべての人に関わることですので、プログラムの内容をしっかりと把握しておきましょう。
本記事では、2024年から始まる建設業働き方改革加速化プログラムについて、建設業界の現状と取り組んでいる内容を、具体的に解説していきます。
建設業の働き方改革は2024年まで猶予がある
近年、職場環境の改善を目的とした働き方改革が行われています。
2019年に参議院常任委員会調査室が調査した「建設業における働き方改革の概要労働環境改善に向けた主な取り組み」によると、建設業界で働く労働者の就業時間は2,036時間という結果でした。
これは全産業の平均と比べると、年間300時間も多い結果です。
さらに、週休2日をきちんと取得できている労働者は1割以下、全く取得できていない労働者が4割以上という結果も出ています。
そのため、建設業界も働き方改革が推進されているのですが、2024年まで猶予が与えられています。
これは、建設業界が1993年頃から人材不足や建設投資の減少などが続いており、対策に時間がかかると予測されているためです。
出典:参議院常任委員会調査室「建設業における働き方改革の概要労働環境改善に向けた主な取り組み」
建設業界の課題
建設業界には、長時間労働などの課題があります。
建設業界は現在、このような課題に向き合い、労働環境の改善に取り組んでいる真っ最中です。
ここでは、建設業界が改善に取り組んでいる課題についてご紹介します。
課題1:長時間労働/休日出勤
建設業界は長年にわたり、長時間労働や休日出勤が多いことが課題でした。
そのため、長時間労働の是正や、週休2日の確保をするための取り組みなどが行われています。
たとえば、公共事業の週休2日工事の件数と実施団体を増やすことで、民間工事でも週休2日制を導入する取り組みを実施しております。
さらに、ICT化などのデジタルを積極的に活用することにより、労働時間の見える化を進めております。
見える化により、長時間労働の抑制となることが狙いです。
課題2:人手不足
建設業界は、慢性的な人手不足に悩まされています。
建設業の就業者数は1997年をピークに下がり続け、2016年には約28%も減少しています。
また、後継者不足も深刻です。
国土交通省が行った調査では、建設業就業者のうち、55歳以上が約3割を占めており、29歳以下は1割程度という結果になっています。
こうした状況を解決するためにも、労働環境の改善が急務と考えられています。
出典:国土交通省「建設業界の現状とこれまでの取組」
働き方改革を進めるメリット・デメリット
働き方改革を推進するうえで、まずは企業と従業員にとって職場環境を改善することで得られるメリットを把握して共有することが大切です。
働き方改革を実現する主なメリットは、以下のとおりです。
企業のメリット1:生産性の向上
働き方改革を実現するためには、従来よりも短い労働時間でこれまで以上の利益を確保することが不可欠です。
そのため、社内のワークローの見直しやITツールなどを活用して生産性向上を実現することが大きなポイントと考えられます。
企業としても生産性の向上は、事業を成長させるうえで欠かせない要素の1つなので実現できれば、会社の発展に大きく役立つでしょう。
企業のメリット2:離職率の低下
働きやすい職場になれば、労働環境を理由に退職する社員が減少します。そのため働き方改革の実現は、離職率の低下に直結すると考えられます。
さらに「働きやすい職場」とPRすることで採用活動を円滑に行いやすくなるほか、優秀な技術者などの人材を確保しやすくなるというメリットもあります。
企業のメリット3:BCP(事業継続計画)の構築に役立つ
大規模災害などの際に、なるべく早くこれまでの事業を再開して利益を生み出すための計画のことを「BCP(事業継続計画)」といいます。
働き方改革の重要な目的の1つが「多様な働き方の実現」です。
テレワークで働ける環境の整備の必要性は、2020年に大流行した新型コロナウイルス感染症で痛感した人も多いのではないでしょうか。
現場仕事が中心の建設業においても、施工管理職の事務作業の一部をテレワークにすることで非常時でもなるべく早く仕事を再開できる環境の構築の一環となるでしょう。
企業のデメリット:コストがかかる
企業にとって大きなデメリットなのが、働き方改革を実現するために費用や時間、人材のリソースなどのコストが発生してしまうことです。
生産性の向上のためにはITツールを導入、システムを更新しなければならない可能性は高いですし、社内規定の変更も必要です。さらにプロジェクトを推進する部署の立ち上げや担当者の配置も考慮する必要があります。
このようなコストを計算しつつ、工期が遅れないようにバランスを図りながら、なるべく早くかけたコストを回収できる計画の立案と実行が大切になります。
従業員のメリット:ワークライフバランスのバランスを図りやすい
従業員のメリットとしては、労働時間や残業時間が減少するので仕事とプライベートを充実しやすいことが挙げられます。
空いた時間で施工管理技士などの各種資格の勉強をすれば、キャリアアップや資格手当などによる給料アップも図れます。
従業員のデメリット:収入の低下と業務量の不公平感の増大
働き方改革では「時間外労働の上限規制」によって、原則、月45時間、年360時間以内でしか残業はできません。
仮に36協定で特別に可能な残業時間を増やしたとしても、年720時間以内、複数月の平均80時間以内、月100時間が条件となります。そのため、これまで貰っていた残業手当の金額が小さくなってしまう恐れがあります。
また、基本的に業務量は変わらず労働時間が減少してしまうため、かえって負担が大きくなってしまう可能性があります。また、業務効率を推進するあまり、仕事の早い人に仕事が集中してしまう恐れもあるので上層部はもちろん、従業員も積極的に業務量の平準化に取り組む必要があるでしょう。
「建設業働き方改革加速化プログラム」とは
「建設業働き方改革加速化プログラム」とは、国土交通省が作成したプログラムです。
建設業の働き方改革をさらに進めるため、新たに3つの分野に施策をまとめています。
プログラムを策定した理由
政府は、「働き方改革実行計画」を踏まえた取り組みを推進しています。
そして、国土交通省はさらにこの流れを加速すべく、新たに策定したのが「建設業働き方改革加速化プログラム」です。
関係者が認識を共有し、密接な連携を図ることで、施策を展開していくために作られました。
3つのプログラム内容
「建設業働き方改革加速化プログラム」は、主に3つの柱からなっています。
・長時間労働の是正に関する取り組み
公共工事における週休2日工事の件数と、実施する団体を大幅に増やします。
また、民間工事においても週休2日制を積極的に導入する企業を評価する仕組みを作り、導入を後押しする取り組みです。
・給与や社会保険に関する取り組み
技能や経験にふさわしい給与の実現と、社会保険の加入をミニマム・スタンダードするとしています。
・生産性向上に関する取り組み
増員が難しい企業に対して、積極的にICTの導入を推進しています。
出典:国土交通省「「建設業働き方改革加速化プログラム」を策定 ~官民一体となって建設業の働き方改革を加速~」
「建設業働き方改革加速化プログラム」について理解しておこう
長時間労働や人員不足などの課題解決のために、建設業界は、働き方改革加速化プログラムを軸に、抜本的に生まれ変わろうとしています。
建設業は、日本の職業としての歴史もあり、人々の生活に直結する社会貢献度の高い職業です。
これらの課題が解決することにより、さらにやりがいを持って仕事をできる方が増えるでしょう。
2024年という年を1つ見据えて、建設業界でキャリア形成することを考えてみてはいかがでしょうか。