住みやすいまちづくりを考えた際の都市環境には、大気や水、土壌、動植物など、
さまざまな環境条件を整える必要があります。
さらに、インフラ施設や運営制度などの社会環境、その土地の文化や景観に関わる歴史的環境なども含まれます。
本記事では、まちづくりと都市環境についてご紹介します。
都市環境の要素
都市環境は、まちづくりを考える上での基本的な条件となります。
主に「自然環境」「社会(人工的)環境」「歴史環境」の3つの要素で構成されています。
自然環境
自然環境はきれいな大気や水、健康的な土壌と動植物などから、まちづくりに影響を与える環境条件を指します。
社会(人工的)環境
人が建設・運営する設備や施設、その運営の制度などが影響を与える環境条件です。
安全性、利便性、快適性などが挙げられます。
歴史環境
伝統的建造物、まちなみ、地域固有の風景など、文化や景観に関わる環境条件です。
社会環境に含まれる部分もありますが、まちづくりでは個別に扱います。
相互作用による影響
人々が暮らす都市は、3つの都市環境が相反したり補完したりしながら、相互に影響を与えています。
この空間の中で、人々はさまざまな活動を行いながら生活を営み、社会や経済活動を行っていくのです。
社会環境と自然環境
3つの都市環境の内、特に自然環境と社会環境は、
相互関係の変遷の蓄積が社会活動空間として都市の在り方に影響してきました。
利便性や快適性を獲得しようとする人々の働きかけは、
自然環境へ影響を及ぼしながら成り立ってきました。
たとえば、19世紀以後の化石燃料の大量消費、ガス、電力などのエネルギー消費は、
短期間での二酸化酸素の排出量の増加につながっています。
また、生活レベルの向上は排気物の増加をもたらしています。
これらの環境の経緯から、環境アセスメントなどの仕組みが誕生しました。
環境アセスメント
環境アセスメントとは、1993年に制定された環境基本法と
基本法を上位法とする環境アセスメント法を法的根拠として実施されるものです。
環境アセスメントでは、環境影響を計測することでその結果を反映し、
計画の修正を行う仕組みとその意思決定のシステムがあります。
環境アセスメント法は、1997年に制定され、1999年に施行されました。
環境への影響を調査・予測・評価し、その結果を公表し、地方公共団体から意見を聴取します。
そして環境保全の観点から、より望ましい事業計画が作成されます。
日本では、高度経済成長に伴い、公害による健康被害が多発しました。
環境アセスメントは、こうした公害とその後の環境問題の広がり、
世界的な環境問題の流れを背景として制定されました。
バリアフリー
高齢者や障害者などの生活弱者が公共施設などを利用しやすいように、
段差など生活上の障害となるものを取り除くことは「バリアフリー」と呼びます。
似た言葉にユニバーサルデザインがありますが、これは誰もが利用しやすいモノを設計することを指します。
いずれも、利用者に対して優しい設計を目指していますが、
都市施設の整備方法に大きな影響を与えているのが特徴です。
たとえば、鉄道駅では階段幅を減らしてエスカレーターが設置されています。
また、コンコースからホームへの垂直移動が可能になるよう、エレベーターを設置している駅も多いです。
これらは当初、バリアフリーの目的で設置されていました。
しかし、設置数が増加したことで通常設備化したことで、
すべての利用者を対象としたユニバーサルデザインへと変化したのです。
都市景観
歴史、文化、自然を総合的に反映したものが都市景観です。
自然環境、社会環境と並び、都市計画の重要な対象となっています。
まちづくりの中で都市景観を具体的に進めるための計画が「都市景観計画」です。
都市景観には、まず「各地域、地区の景観」があります。
これは、個々の要素が含まれていますが、目指すべき地区の風景として都市景観計画の基本になるのです。
次に「歴史的景観や伝統的景観の保全」があります。
これは、その地域特有の風情や情緒、たたずまいなどの保全を進める項目を指します。
「眺望の保全」は、歴史的景観や地域の環境を損なう建築物に対する規制や誘導を含んでいます。
たとえば、「工作物や屋外広告の規制」「開発行為の規制」などが関係しています。
さらに、「地区計画」「建築協定」「緑化計画・協定」などは、
歴史的景観や街路景観、眺望保全などを実現するための方法として項目が立てられています。
社会環境の1つ「歴史環境」
歴史環境は、伝統的建造物、まちなみ、地域固有の風景など、文化や景観に関わる環境条件を指します。
またその中でも、橋や鉄道、道路など生活に溶け込んだ構造物は「歴史的構造物」と呼ばれます。
歴史的構造物は、工学遺産とほぼ同様の意味です。
歴史的文化価値を持っている歴史的構造物は、
都市環境の重要な要素となりまちづくりに大きな影響を与えるものです。
近年では、歴史的なまちなみづくりのために、歴史的構造物の活用事例も増えています。
歴史的構造物がまちづくりに求められる理由
歴史的構造物には、物的な面と心理的な面の成果があります。
物的な面とは、橋を架けたり、ダムを建設したりすることによる、物理的な影響のことです。
交通時間の短縮や電気の供給など、利便性や安全性の確保、
および自然に変更を加えて作りだされた景観などが挙げられます。
心的な面での成果とは、構造部が役割を果たす時間の中で社会と人々の営みに関わる影響などのことです。
たとえば、建設時の技術やデザインなどの記録の媒体を指します。
そのモノが生活に根差すことで、過去の人々を思い出させるメモリアルとしての役割を持っています。
歴史的構造物が存在し続けることにより、その地域で物的・心的な効果を発揮し、
文化財としてのまちづくりに影響を及ぼしているのです。
歴史的構造物の例
橋梁
2007年に重要文化財に指定された隅田川の震災復興橋梁「永代橋」「清洲橋」「勝鬨橋」などが挙げられます。
ダム
1900年に完成した神戸の「布引ダム」が挙げられます。
神戸近代水道の貯水池として作られており、日本で最初に重力式粗石コンクリートダムです。
阪神大震災によって一部被害を受けましたが修復され、2006年に重要文化財に指定されました。
造船ドッグ
1989年に竣工され75年にわたって使用された「横浜船渠第2号ドック」が挙げられます。
1998年に重要文化財の指定を受けました。
1973年に機能停止しましたが、横浜みなとみらい地区の再開発でランドマークタワーの一体構造として再度使用されるようになりました。
すでに造船ドッグとしては使用されていませんが、イベント広場スペースなど新たな役割に使用されています。
堰堤(えんてい)
白岩堰堤は1939年に完成した富山県の堰堤で、防災施設の機能はそのままに重要文化財に指定されました。
砂防堰堤は、急流河川常願寺川の源流域の立山カルデラから供給されている土砂をその出口でせき止めています。
都市環境の知識をつけよう
都市環境は、まちづくりを考える上での基本的な条件であり、
「自然環境」「社会(人工的)環境」「歴史環境」の3つの要素で構成されています。
これらは、快適なまちづくりには欠かせない要素ですので、
それぞれに関する知識を覚えておくことをおすすめします。