前編では、S造建築の仕口・継手の基本的な構造とダイアフラム、溶接について解説しました。
後編では、前編で解説した仕口・継手の柱との位置や統合との補強、ブレース、高力ボルトなどについて解説します。
柱と梁の位置
柱と梁は、建物の強度・耐久性に大きく影響する重要な部材です。
そのため、柱と梁の位置を適切に配置し、仕口・継手を適切に施工することで建物の強度・耐久性を向上できます。
また、柱と梁の位置を適切に配置することで、仕口・継手の施工を容易にできます。
たとえば、柱と梁の接合部がスパン中央部に位置していると、曲げモーメントやたわみが最大になるため、仕口・継手の施工が難しくなります。
そのため、柱と梁の接合部は、スパン中央部を避けて配置するのが一般的です。
梁とブラケットの継手位置
梁とブラケットの継手位置は、一般的に梁の長さの1/4以内に、継手位置を配置します。
梁の長さの1/4以内に継手位置を配置する理由は、継手部分の応力を分散させるためです。
また、継手位置を梁の中央部に配置すると、継手部分に集中する応力が小さくなり、強度を確保しやすくなります。
継手位置には、小梁、間柱、貫通孔を配置しないように注意が必要です。
小梁、間柱、貫通孔は、継手位置に配置すると、継手の強度や耐久性に影響を及ぼす可能性があります。
ブレース接合部
ブレース接合部とは、ブレースと柱、梁を接合する部位のことです。
ブレースは、建物の耐震性を向上させるために用いられる部材で、地震の際には柱や梁の水平方向の力を分散させる役割を果たします。
そのため、ブレース接合部は、ブレースの強度や耐久性に大きく影響する重要な部分です。
ブレース接合部を柱と梁に留める方法は、接合方法によって異なります。
溶接接合の場合
H形鋼等の場合は、溶接を行います。
溶接接合の場合、ブレースの端部に溶接棒を溶接して、柱や梁に接合します。
ブレースの端部には、溶接棒を溶接するための溶接座を設けます。
溶接座の形状は、溶接棒の径や溶接方法によって異なります。
一般的には、溶接棒の径の2倍程度の幅と高さを持つ溶接座を設けます。
溶接座を設けたブレースを柱や梁に取り付け、溶接棒を溶接します。
溶接棒の溶接はブレースと柱、梁の接合強度を確保するため、十分な溶接長と溶接深さを確保します。
ボルト接合の場合
ボルト接合の場合、ブレースの端部にボルト穴を設け、柱や梁にボルトで接合します。
ボルト穴の形状は、ボルトの径や座金の形状によって異なります。
ボルト穴を設けたブレースを柱や梁に取り付け、ボルトを締め付けます。
ボルトの締め付けトルクは、ボルトの強度や接合強度を確保するため、適切なトルクを管理する必要があります。
溶接接合とボルト接合のどちらの接合方法を用いるかは、建物の構造や荷重条件によって異なります。
一般的には、溶接接合はボルト接合に比べて接合強度が高く、施工性も良好であるため、多くの場合溶接接合が用いられます。
ブレースの材料
ブレースは、一般的に以下の鋼材で作られています。
丸鋼
丸鋼は、断面が円形の鋼材です。
加工性や施工性に優れているため、小規模な建物や梁や柱などの接合部に用いられることがあります。
平鋼
平鋼は、断面が平型の鋼材です。
軽量で加工性に優れているため、小規模な建物や軽量化を重視する建物に用いられることがあります。
山形鋼
山形鋼は、断面が山形の形状をした鋼材です。
ブレースの材料として用いられる場合、一般的には等辺山形鋼(AB)や不等辺山形鋼(L)などを使用します。
強度が高く、施工性にも優れているため、一般的に用いられるブレースの鋼材です。
溝形鋼
溝形鋼は、断面が溝形の形状をした鋼材です。
ブレースの材料として用いられる場合、一般的には、溝形鋼(CB)や鋼板積層形鋼(RHS)などが用いられます。
強度が高く、施工性にも優れているため、山形鋼に代わるブレースの鋼材として使用することがあります。
高力ボルトによる接合
高力ボルトとは、一般的なボルトに比べて強度が高いことが特徴です。
また、高力ボルトを用いることで、構造物の強度や耐久性を向上させることができます。
高力ボルトの接合は一般的なボルトの接合に比べ、以下のメリットがあります。
- 接合強度が高い
- 施工性が高い
- メンテナンス性が高い
高力ボルトは、強度や施工性、メンテナンス性などの点で優れたボルトです。
そのため、鉄骨造建築物や大型風力発電設備などの構造物に広く用いられています。
摩擦接合とは
摩擦接合とはプレート同士の引き付け合いが強いことで、プレート面に強い摩擦が乗じて接合される方法のことです。
摩擦接合の特徴は以下のとおりです。
- 接合強度が高い
- 溶接棒や溶剤などを要せず、特別な開先加工を必要としない
- エネルギー効率が高い
- 異種金属の接合が可能
ボルトにマーキングする理由
ボルトにマーキングする理由は、共回り(ともまわり)が分かるようにするためとされています。
ボルトを締め付ける際には、ボルトとナット、座金が共回りしたり軸回りしたりしないように注意しなくてはいけません。
共回り・軸回りが発生すると、ボルトの締め付け力が不足し、接合強度が低下する恐れがあります。
マーキングを行うことでボルトとナット、座金の位置関係を特定できます。
これにより、共回り・軸回りの発生を防止することが可能です。
ナット座面の裏表の確認方法
面を取ってあるのが表となります。
ナットの座面の裏側には、製造時に生じる凹凸があります。
そのため、ナットを平らな面に乗せた際、座面に凹凸があればその凹凸が見える側が裏側です。
また、ナットの座面には、裏側と表側で刻印の向きが異なるものもあります。
そのため、ナットの刻印の向きを確認することでも、裏表を確認できます。
接合方法やボルトの種類も理解しよう
S造建築の仕口・継手は、建物の強度や耐久性に大きく影響する重要な要素です。
柱との位置や統合との補強、ブレース、高力ボルトなど知っておくことは多いですが、仕口・継手を適切に施工することで建物の強度・耐久性を向上できます。
柱と梁の位置と仕口・継手の関係を適切に理解し、設計・施工を行うことで、安全で快適な建物を実現することができるでしょう。