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農業水利施設の保全管理システム。現況や改定内容を解説

ダムや水路などの機能保全のため、保全管理システムがあるのをご存知でしょうか。
農業水利施設のほとんどは、戦後から高度成長期にかけて作られたとされており
現在老朽化が問題となっています。
本記事では、農業水利施設の現状やストックマネジメント、機能保全のための改訂内容をご紹介します。

農業水利施設の状況

農業水利施設のほとんどは数十年前に作られており、
農林水産省のデータによると以下の問題が指摘されています。

老朽化
基幹的農業水利施設の多くは、戦後から高度成長期にかけて整備されてきたため
老朽化が進行しています。
標準耐用年数を経過している水利施設は、再建設費を考えると
約5.2兆円で全体の約27%にあたるとされています。

突発事故数の増加
農業水利施設の突発事故(災害以外の原因による施設機能の損失)件数は
増加傾向にあるとされています。
施設の劣化や局部的な劣化が事故原因の大半を占めています。
現状では施設全体の現状が把握できておらず、
不具合が発生する度に対症療法的な事後対策を取る必要があります。

耐震対策
大規模地震が発生する確率の高い地域での農業水利ストックが多数形成されており、
耐震対策の推進が必要といわれています。
特に南海トラフ地震の被害想定範囲内に全国の農業水利ストックの約3割が存在しているため、
耐震対策の推進が必要とされています。

出典:農林水産省「農業水利施設におけるストックマネジメントの取組について

ストックマネジメントとは

農業水利施設におけるストックマネジメントとは、施設の機能がどのように低下しているのか、
どのような対策を取れば長寿命化できるのかを検討し、施設の機能保全を効的に実施することで
ライフサイクルコストを低減させる取り組みのことです。

具体的には以下が挙げられています。

  • 施設の性能評価を行い、劣化の見通しを知る。
  • 老朽化リスクの評価を行う。
  • 農業水利施設は複合施設のため、箇所毎に劣化具合が違うことがある。
    このため、箇所毎の劣化状態に合わせた対応を考える。
  • 個別施設毎の対応を考える

施設の機能維持対策だけでなく、施設を利用し、より良い地域づくりに活かすことや
新たな価値を生み出すこともストックマネジメントの取り組みとされています。

ストックマネジメントの実施サイクル

ストックマネジメントは、以下のサイクルを繰り返すことで実施されます。

  1. 管理者による適切な日常管理
  2. 定期的な機能診断
  3. 施設の劣化を予測し、工法などの比較検討することによる対策計画の作成
  4. 機能保全コストの比較
  5. 対策の実施
  6. 過程を通じて得られた施設状態や対策履歴などのデータの蓄積と利用

さらに新技術の開発と現場への導入を推進し、適切な時期に適切な機能保全対策を行えば
施設の長寿命化とライフサイクルコストが低減されると考えられています。

出典:農林水産省「農業水利施設におけるストックマネジメントの取組について

改訂内容とは

ダムの写真

農林水産省は、ダムや水路など農業水利施設を対象とした機能保全の手引きを改定すると
2022年7月に発表しました。
改訂された手引きには、新技術の成功活用から結果の検証や標準化に至るプロセスが記載されます。
また、ドローンや水中ロボットカメラなどによる施設点検などの導入も後押しされます。
さらに、施設の補修・利用者の情報に関係する民間事業者や
国民にも公開される方針を盛り込んでいます。

対象となるのは、ダムや頭首工、用排水機場などの「基幹施設(7,656ヵ所)」と
「基幹的水路(総延長51,472km)です。
2023年2月を目処に改訂の最終案をまとめ、農水省の審議会の部会に報告されます。

農業水利施設は見直しが進んでいる

全国にある基幹的農業水利施設は老朽化が進んでおり、
地震や突発事故が起きた時に問題が発生する可能性があります。
そのため、現在では施設点検や補修のための手引きが改訂されており、
今後改善が期待できるとしています。