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建設業の重層下請構造の状況。どのような課題や対応策がある!?

建設業において、工事の総監督を担当している元請のもと1次下請、2次下請、
さらにその下に下請企業が存在し、重層下請構造ができあがっています。
工事の分業化に優れるため一見合理的な仕組みにも思えますが、
複数の企業が階層化することで工事の進捗状況やコストの発生元が複雑化し、弊害が起こることがあります。
そこで国土交通省が、重層下請構造を改善するための改善策を打ち出しました。

本記事では、就職前に知っておくべき重層下請構造の状況、これから改善が期待される内容についてお伝えします。

重層下請構造の改善が必要な理由

重層下請構造を改善すべき理由には、以下が挙げられます。

  • 基準を満たす施工管理や安全管理が行われない可能性があるため
  • 下位下請が受け取れる利益が減少するため
  • 施工管理を行わない下請企業により下請構造がより複雑化するため
  • 非正社員が増加するため

下請が重層化して複雑になるほど、工事の施工管理や安全性が行き届かず事故に繋がる恐れがあります。
というのも、安全性にかかわる重大な連絡事項が全体に行き渡らないためです。

また、安全管理における責任の所在や役割が明らかにされず、危険な状況が見過ごされる場合があります。
そのほか、下請が下位にいくほど利益が減る、資材の搬入のみなど
施工管理を必要としない企業の参入による構造の複雑化、
閑散期に備えるため正社員を雇わないといった問題が懸念されています。

参照:国土交通省「重層下請構造の問題点

現場単位の下請次数
実際に、重層下請構造が出来上がっている割合を見ます。
国土交通省が14,000の業者を対象に行った調査の統計によると、全体のうち以下のような結果になりました。

  • 元請:57%
  • 1次下請:35.1%
  • 2次下請:6.9%
  • 3次下請以降:1.1%

出典:国土交通省「重層下請構造の改善に向けた取組について

下請に付した理由

重層下請構造は、業者や工事全体にデメリットがあるにも関わらずあまり大きく減る様子がありません。
国土交通省が調査したところ、元請および下請には以下の理由があることがわかりました。

  • 該当工事に従事できる社員がいないため
  • 請け負った工事の専門性が高いため
  • 自社の労働力が不足しているため

特に元請や上位の下請は、該当工事に従事できる社員がいないためと述べた企業が多かったことに対し、
下位の下請は、自社の労働力が不足しているためとの回答がほとんどでした。

参照:国土交通省「平成30年度下請取引等実態調査の結果について
参照:国土交通省「重層下請構造の改善に向けた取組について

現状の主な課題

重層下請構造において国土交通省が発表している現状の課題です。

重層下請構造における重要な課題

課題1:上層への専属化
少子高齢化が加速している背景から、工事数の減少および人材不足が深刻化し不況が続いています。
そのため多くの企業が自社で正社員を雇わず、業務を外注化するケースが増えて重層下請構造ができあがります。

課題2:繁忙期のみの人材需要
工事数が年間を通して安定していないことから、繁忙期のみ人材を増やす必要があり
外注による人材確保が増加しています。
そのため繁忙期における工事では重層下請構造ができやすくなっています。

課題3:施工管理不要の代理店が工事に介入
資材の販売や搬入など、施工管理が不要の代理店が工事に介入することで重層下請構造をさらに複雑化させています。
また、下請業者同士を仲介する企業が工事に介入するケースもあります。

課題4:法令を遵守しない企業が工事へ介入
社会保険等を完備していない企業や法令を遵守していない会社、ブローカーなどが工事へ介入することで
下請構造を直接的または間接的に複雑化させています。

重層下請構造の改善に向けた対応策

建設関連会社の従業員

なかなか改善されない重層下請構造ですが、国土交通省は前章で述べた課題の解決に向けて
複数の対応策を打ち出しています。

具体的な対応策

対応策1:安定的な建設投資の確保
建設投資を行い安定的に工事数を増やすことで、従業員の社員化を進めます。
また建設キャリアアップ制度の整備を進め、資格や能力のある従業員が社員化できる仕組みを整えます。

対応策2:繁閑の波をなくす
繁忙期と閑散期の波をできるだけ減らします。
繁忙期における工事をできるだけ複数の企業へ円滑に発注し、重層化を軽減させます。

対応策3:施工をしない企業を工事に携わらせない
一括下請負基準を明確化し、施工を行わない企業を排除します。
具体的には、一括下請負基準を満たさない、または法令違反をする企業に対し
罰則の強化や経審での減点数の引き上げなどを実施します。

対応策4:不要な重層下請構造を回避する
発注者へ説明できるくらいのレベルにまで下請構造を単純化させます。
具体的には、施工体制台帳や施工体系図を作成し、下請構造を見える化することで実現させます。

重層下請構造は国だけではなく企業独自の改善も必要

重層下請構造は、工事における元請企業を頂点とした、下請企業による重層構造のことです。
近年重層の下位や階層の数が増加し複雑化しており、安全性や利益の面で問題視されています。

しかし重層下請構造を問題視しているのは国土交通省だけではありません。
実際に現場に携わっている企業のなかにも対応策を打ち出している企業があります。
例えば大手建設会社の鹿島建設は、2023年までに下請を原則2次までにとどめる方針を打ち出しました。

元請として工事を進めることが多い大手ゼネコンまたは建設会社が率先して対応策を実行することで、
重層下請構造を減らせる可能性が高まります。